母の病気

先々週の仕事中、父からメールが入った。
滅多に連絡なんてこないから、珍しいなと思って文面を見たら

「母が重大が病気の疑いがある」

との内容だった。


重大な病気、といったら大体想像がつく。
ショックで茫然とした。
そんなこと知らなかった。信じられないって気持ちと、悲しさで涙を堪えた。

「現状でもほぼ間違いないが、来週、最終の検査の結果が出る。仕事休んで立ち会え」

とのことだった。



家に帰っても、そのことは口にはしなかった。父も母も何も言わない。
特に母は内緒にしているようなので、口にできなかった。

「身の回りを少し整理しようと思って」

と母はいろんなものを捨て始めた。
理由は言わないが、明らかに表情は暗い。そんな姿を見て、ひとり部屋で泣いた。


「薬の場所とか教えるから覚えておいて。私がいなくても大丈夫なように」

と、家の中の事をいろいろと教えてくるようになった。家事全般は母の仕事であり、どこに何があるか私も父もわからない。
それを知っているので、教えておこうというのだろう。泣いた。


仕事中も時折、うるっと来た。
毎日お昼のお弁当を母は作ってくれるのだが、「これで最後かもしれない」と思うと、まともに食べられなかった。車で泣きながら食べた。


最初に2〜3日はショックで、思い出したように泣くというのを繰り返した。
そのあと、「なんとかやっていくしかない」と覚悟を決めた。


そして検査の日。
「せっかくの休みなのに、ごめんね」という。

病院への道を覚えろと、父が運転、自分が助手席に座る。道中、病気のことは話さず、当たり障りのない会話だけをした。そういえば3人で出かけるなんて久しぶりだと思った。理由を考えれば楽しくはないけれど。


病院についた。
「あー、着いちゃった。今が人生で一番嫌」
それはそうだろう。結果が出ることは、死の宣告に近い。同行するこちらもつらいのに。

受付を済ませ、待つ。回りには結構な人がいる。泣きながら診察室から出てくる人もいる。長く感じる。
呼び出しがあるたび、ドキリとする。


母が呼ばれ、診察室へ入っていった。
黙って、そそくさと入っていった。


父と話す。
「家事できるのか?」
「ちゃんとやっていけるのか?」

家の事は全て母任せだった。
母がいない生活なんて考えたこともなかったし、考えたくもなかった。
黙って待つ。


母が診察室から出てきた。
顔を合わせるのがつらい。


そして母の一言。





「違ったわ」





笑ってた。


は?
なに?
ほぼ間違いないとか言ってなかったっけ?


「前の検査だと確かに異常が出たけど、精密な検査をしたら違ったみたい。健康に問題ないって」


この1週間の心配はなんだったんだ。散々心配させて。


どうやら「その可能性がある」ってのを、過大評価して「そうに違いない」と思い込んでいたらしい。
もっと決まってから言ってほしかったわ。



「ずっと不安でろくにご飯も食べられなかったから、急にお腹が空いたわ」


帰り、三人で外食して帰った。
蕎麦、おいしかった。



そんなこんなで、最初の連絡がきてからずーっとモンモンとした一週間でした。
結果でいえば単なる杞憂でしたが、いい経験になりました。
今の生活は当たり前じゃないってこと、健康は大事ってこと、失うって分かってからその大事さに気づくこと、それを失うことに比べれば日頃の大変なんて大体は大変じゃないってこと、親孝行はしておくものだってこと。


いろいろと教えられた。色々とありすぎて、いまだ夢でもみていたかのような気分である。
今回の経験を忘れず、生きていこうと思います。